義肢装具士ってどんな仕事?

義肢装具士ってどんな仕事?

こんにちは、イカPOです。
義肢装具士の資格を取ってこの仕事を始めてから、なんやかんやで5年ほど経ちました。
今日はあらためて、「義肢装具士ってどんな仕事なのか」を振り返ってみようと思います。

義肢装具士を目指している人、
あるいは仕事で関わる中で「義肢装具士ってなに?」と興味を持った人に向けて、
現場で働く義肢装具士として、できるだけわかりやすくお話しします。


ざっくり言えばどんな仕事?

義肢装具士とは、その名のとおり、義肢や装具の製作と販売を行う仕事です。
主な職場は病院で、医師の指示のもと、身体の一部や機能を失った人が使う義肢・装具を作るために、装着部位の採型・採寸・製作・適合を行います。

医療の現場で働く「ものづくり職」と言えばイメージしやすいかもしれません。


法律上の定義

義肢装具士は、国家資格です。
その根拠となるのが「義肢装具士法」という法律で、義肢装具士の資格や業務範囲を定めています。
以下はその一部を抜粋したものです。


義肢装具士法(抜粋)

(目的)第一条
この法律は、義肢装具士の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって医療の普及および向上に寄与することを目的とする。

(定義)第二条
この法律で「義肢」とは、上肢または下肢の全部または一部を欠損した人に装着して、その欠損を補い、または失われた機能を代替するための器具をいう。
この法律で「装具」とは、上肢・下肢・体幹などの機能に障害がある人に装着して、その機能を回復させ、低下を抑制し、または補完するための器具をいう。
この法律で「義肢装具士」とは、厚生労働大臣の免許を受け、医師の指示の下に義肢や装具の採型・製作・適合を業とする者をいう。

(免許)第三条
義肢装具士になろうとする者は、義肢装具士国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない。

📎 法令リンク:義肢装具士法(e-Gov法令検索)


名称独占と業務独占

法律上、義肢装具士は「医師の指示の下で、義肢や装具の採型・製作・適合を行うことを業とする者」と定義されています。
つまり、国家資格を持たない人がこの業務を行うことは認められていません。

ちなみに、

  • 義肢(ぎし) … 事故や病気などで身体の一部を失った人が使う器具(例:義手・義足)
  • 装具(そうぐ) … 麻痺や変形など、身体機能が低下した人が使う医療用具

のことを指します。

国家資格として認められる業務範囲は、採寸・採型・適合まで。
医師の処方に基づき、機能的で身体に負担をかけない義肢装具を製作することが義肢装具士の役割です。


法律による制限の例

(名称の使用制限)第四十一条
義肢装具士でない者は、「義肢装具士」またはこれに紛らわしい名称を使用してはならない。

(特定行為の制限)第三十八条
義肢装具士は、医師の具体的な指示を受けなければ、定められた範囲の採型・適合を行ってはならない。


これらの条文が、義肢装具士法の中で「名称独占」と「業務独占」を定める部分にあたります。
つまり、採型や適合といった行為は「診療の補助」として、医師の指示を前提に、資格を持つ義肢装具士だけが行えるよう法律で制限されているということです。


義肢装具士の国家資格を取得するには?

義肢装具士になるには、国家資格の取得が必要です。

主なルートは以下のとおりです。


🧭 資格取得までの流れ

高校卒業後、次のいずれかの方法で義肢装具士国家試験の受験資格を得られます。

  1. 義肢装具士養成施設で3年以上学ぶ。
  2. 大学や高等専門学校で基礎科目を修めた上で、養成施設で2年以上学ぶ。
  3. 「義肢・装具製作技能士」の資格を取得し、養成施設で1年以上学ぶ。

いずれも、厚生労働大臣が指定する養成課程を修了し、国家試験に合格すれば免許が交付されます。


🎓 養成校一覧(スタディサプリ進路掲載)

  • 北海道ハイテクノロジー専門学校
  • 北海道科学大学
  • 西武学園医学技術専門学校 東京新宿校
  • 国立障害者リハビリテーションセンター学院
  • 人間総合科学大学
  • 新潟医療福祉大学
  • 中部リハビリテーション専門学校
  • 神戸医療福祉専門学校 三田校
  • 専門学校穴吹リハビリテーションカレッジ
  • 熊本総合医療リハビリテーション学院

📎 参考リンク:義肢装具士の養成校一覧(スタディサプリ進路)


現在、養成校の数は全国でも多くはありません。
多くは4年以上の学習期間を必要とします。3年で卒業できる学校は現状なかったと記憶しています。(あったら教えてね)


義肢装具士はどこに所属しているのか?

義肢装具士の多くは、義肢装具を製作する会社に勤務しています。
いわゆる「義肢装具製作施設」や「製作所」と呼ばれる場所ですが、
要するに義肢装具を作る会社です。

ほとんどの義肢装具士は会社員として働いています。
一方で、病院の「義肢装具製作課」に所属している人もいますが、こちらは少数派です。


🧩 主な勤務スタイル

義肢装具士が所属する組織形態は、おおまかに次の3パターンに分かれます。

  1. 義肢装具製作会社勤務(大多数)
  2. 独立・一人親方スタイル(一定数)
  3. 病院勤務(少数)

🏭 義肢装具製作所の規模感

業界全体で見ると、大企業に分類される会社は存在しません。
最も大きい会社でも従業員数は約700人ほど。

多くの製作所は30人前後、あるいは3〜5人で運営されている小規模事業所が中心です。

また、700人規模の会社でも、義肢装具士はそのうち150人程度
残りは営業・事務・製造補助など、別職種のスタッフです。

ちなみに、イカPOはこのうちの「製作会社勤務スタイル」です。


実際の業務内容

義肢装具士の仕事のメインフレームは、義肢装具を製作するために行う「採寸」「採型」「適合」の3つです。
(この部分は法律上も、義肢装具士の業務として定義されています。)

ちなみに、実際にプラスチックを削ったり、金属を曲げたりといった“製作作業そのもの”には、国家資格は必要ありません。
あくまで資格が必要なのは、身体に関わる採型や適合の部分です。


🧩 一連の業務サイクル

所属する会社や組織によって細かい内容は異なりますが、
基本的な流れはどこもだいたい次のようなサイクルです。

  1. 病院で採寸・採型
     医師の処方内容を確認しながら、患者さんの患部や身体の形状を採型します。
  2. 会社で義肢装具を製作
     採型データや石膏型をもとに、設計・加工・組立を行います。
  3. 病院で適合・納品
     完成した装具を実際に装着し、使用感を確認しながら微調整します。

このサイクルを一貫して行うか、あるいは「営業(臨床対応)」と「製造(工場作業)」を分業するかは、会社によって異なります。
人数が多い会社ほど、完全分業制を取っている傾向が強いです。
ちなみにイカPOは、完全に分業している会社に所属しています。


🛠 義肢装具以外も扱うの?

扱います!

義肢装具士の仕事は義肢・装具だけにとどまりません。
会社や組織によっては、次のような商材も取り扱います。

  • 杖・歩行器・車いすなどの福祉用具
  • 住宅改修(手すり・段差解消など)

また、福祉用具のレンタル部門を併設している会社もあります。
規模の大きい会社では、義肢・装具・補装具・車いす・姿勢保持装置・住宅改修など、医療・福祉分野全般をカバーしている場合もあります。

つまり、所属している組織の取り扱う商材によって、担当するアイテムの幅が大きく変わるということです。


どんな人が向いてるのか?

「ワイのこだわりを形にしたいんや!」という職人気質タイプには、少しつらい職業かもしれません。
一定以上の経験とスキルを持つ義肢装具士でなければ、現場で自分のこだわりを押し通すのは難しいと思います。

義肢装具士の仕事は、医療従事者でありながら営業でもあり、そして設計・加工を担う技術者でもある。
つまり、一人の中に三つの顔(営業・医療・技術)を持つような仕事です。
求められる能力は多いですが、その中で一番大事なのは――誠実さだと感じています。

目の前の問題に対して、逃げずに真摯に向き合い、
「どうすればこの人が良くなるか?」を一緒に考えられる人。
そんな人が、この仕事に向いていると思います。


ただし、義肢装具士は会社員でありながら個人商店的な側面も強い職業です。
現場対応・営業・製作・事務処理までをひとりで回せる人は、会社の中でも自然とエースになります。
そして、そういう人は最終的に独立して一人親方になるケースも多いです。

要するに、
「自分の腕で飯を食っていきたい」
「一人でもやっていけるようになりたい」
そんなバイタリティのある人には、とても向いている職業だと思います。


よくある質問に回答してみよう

💬 資格取得は難しいですか?

うーん……「難しいかどうか」は人によります。
ただし、学校に入学して、ちゃんと授業を受けていればほとんどの人が合格できます。
特殊なセンスや天才的な手先の器用さは、必要ありません。


📊 第38回 義肢装具士国家試験 結果

  • 合格発表日:2025年3月26日(水)
  • 受験者数:186人
  • 合格者数:133人
  • 合格率:71.5%

国家試験としては、合格率70%台と比較的高めです。
つまり、「学校で学ぶ内容をきちんと理解していれば合格できる試験」と言えます。

もちろん、解剖学・生理学・運動学といった医療系の基礎知識は必要ですが、
どれも「努力すれば必ず身につく範囲」です。


薄給激務ってマジ?

はい、会社によります。
……けど、残業は多いです。

お給料も会社によって差がありますが、
トッププレイヤーになれば、ちゃんと“手元に残るお金”が増える仕組みにはなっています。
いわゆる資本主義システムは、きっちり採用されています。

とはいえ、労働時間は長めです。
ワークライフバランスは、やろうと思えばいくらでも放棄できます。
その代わりにお金がついてくるかどうかは、完全に会社次第。

この仕事に“サラリーマン的な感覚”を持ち込むと、
ちょっと損した気分になるかもしれません。
「自分の時間を売る」というより、
「自分の成果を売る」感覚のほうが近いですね。


経験とスキルを積めば給料が上がるの?

正直に言うと、給料と経験・スキルはほとんど関係ありません。
これは、どんな仕事でも、どんな会社に行っても同じです。

この国のシステム上、給料は「どの椅子に座るか」で決まる。

義肢装具士も例外ではありません。

資本主義社会なので、どこのマーケットに自分の時間を投じるかで、最終的に手に入るお金が決まります。


難しい症例を解決するスキルがあっても、
それが直接、給料アップにつながるわけではありません。
もちろん会社で評価され、出世という形で賃金が上がることはありますが、
その上がり幅は会社の賃金テーブルに左右されます。


💰 義肢装具の価格は「公費」で決まる

義肢装具の価格は公費制度で定められているため、
同じ装具であれば、どんな症例でも価格はほとんど変わりません。

つまり、
難しい症例を1つこなすより、簡単な症例を3つこなしたほうが儲かる。
これは業界の現実です。

もちろん、難しい症例をこなせる人はそのぶん信用が高まり、仕事の依頼が増える傾向にあります。
結果的に収入も増えますが、その分時間もかかるし、労働量も増える。

ここは注意しておくべきポイントです。


🧠 スキルは「信用値」を生むためのもの

私はこの仕事を、一人親方業だと思っています。
知識やスキルは、あればあるほど有利です。
信用を得て、仕事を増やすための“武器”になります。

ただし――
そのスキルをお金に変えるには、別の能力(営業力・経営感覚・交渉力など)が必要です。
ここを理解していないと、努力と成果が比例しないこともあります。


義肢装具士はつらい?

つらいです。
……正確に言うと、つらかったです。

入社して1〜3年のあいだに、メンタルのどこかを壊す人は少なくありません。
そして、そのまま辞めてしまう方も多い。
逆に、そこから一度立ち直った人は、長く続けている印象があります。

理由は単純です。
義肢装具士の仕事は、誰かのマイナスを一旦引き受ける仕事だからです。
「痛い」「つらい」「しんどい」といった感情を毎日浴び続けるわけですから、
メンタルがすり減るのも当然です。


大きな病院で大量の受注をこなすような環境になると、
個人の裁量が一気に減るため、メンタル的な負荷はさらに増えます。

どんなに完璧な装具を納品しても、
その人にとっては「マイナスからゼロ」に戻っただけ。
つまり、感謝されにくい構造の中で働いているんです。

でも、仕事の中で“感謝の押し売りテク”を覚えていくと、
少しずつ「ありがとう」と言ってもらえる機会が増えて、
心のバランスが取れるようになります。


もちろん、適合不良が続けば気分は落ち込みます。
ただ、それにもだんだん慣れます。ダメなものはいくらあがいてもダメだと割り切れます。
(嬉しいことではないですが。)

私の上司がよく言っていました。

「心の瘡蓋(かさぶた)が厚くなるんや。」

まさにその通りだと思います。瘡蓋が厚くなってくると

落ち込んだ状態でも「ダメな状態からどうしたら改善する?」が考えれるようになります。


こんな話は、この仕事に限った話じゃないと思ってます。
どんな仕事でも、しんどいものはしんどい。
仕事は基本的に「楽しいもの」ではなく、「しんどいもの」。
巷にあふれるポジティブ思考に、あまり騙されないほうがいいです。

労働とは、経営者に搾取されている行為――辛くて当たり前。
そう割り切ったほうが、かえって気が楽です。辛いことを頑張ってる自分を褒めてください。


ちなみに、イカPOは“仕事は辛くて当然派”です。
だから、メンタルを壊したあとは、
筋トレと早寝早起きで心を武装しました。


AIとかに負けない職業?

AIは敵ではありません。
むしろ、使えば使うほど味方になる職業です。

会社員だろうが社長だろうが、
人と働く以上は、地味な「間接業務」が山ほどあります。
事務作業、報告書、会議資料、メール対応……。
これらの“人間が時間を溶かしてきた仕事”を、AIは一瞬で片づけてくれる。

だから、「AIに仕事を奪われる!」なんて言ってる場合じゃありません。
奪われる前に、奪わせろ。
使ったもん勝ちです。


🤖 ブル―カラーだからテクノロジーとの相性は抜群

3Dプリンターや3D CADとの相性も非常に良い。
むしろ、これらを使わない理由が見つからないレベルです。

義肢装具士の仕事は、基本的にブルーカラー職+医療職のハイブリッド
間接業務を減らせば減らすほど、利益が出やすくなります。
製造や事務作業をデジタル技術で効率化し、
早く納品して入金できれば、それだけ仕事の回転が速くなりますよね。

AIやデジタル技術は義肢装具士にとって非常に相性がよい!ということです。


💸 ただし、公費の壁という現実

……とはいえ、ここでひとつ“日本らしい罠”があります。

効率化すればするほど、
「コストが下がったんだから価格も下げてよね?」という
公費制度の“逆インセンティブ構造”が発動します。

つまり、努力して生産性を上げても、
その成果が自分の利益につながりにくい。
「ふざけんなよ」と言いたくなる瞬間です。


🧭 それでも使うべき理由

ただ、それでもAIを使わない手はありません。
制度が古くても、現場の効率化は自分の時間を守る唯一の手段です。

公費の価格は変わらなくても、
「残業が減った」「疲れが減った」「家族と過ごす時間が増えた」――
そういう人生の質を上げる方向に還元すれば、
AIやデジタル技術は間違いなく強い味方になります。


ぶっちゃけ将来性は?

正直、なんとも言えません。
というか、答えようがないです。

義肢装具士の仕事は、社会保障制度の上に成り立つ職業です。
この制度が続く限り、仕事はなくならない。
けれど、大きく伸びることもない。

つまり――
「安定しているけど、広がりにくい仕事」。
それが今のところの現実です。


ちなみにPOってなんですか?

「PO」とは、
Prosthetist and Orthotist(プロセティスト・アンド・オルトティスト)の略称です。

英語で書くとちょっと仰々しいですが、
つまり「義肢(Prosthetics)と装具(Orthotics)の専門家」という意味ですね。

業界では当たり前の略語ですが、
一般的にはまだあまり知られていません。
なので、自己紹介で「POです」と言うと、たいてい「え?なんの略?」と聞かれます。


この仕事の魅力について

ものすごくシンプルに言えば――
問題が解決した瞬間がいちばん嬉しい。

インソールを入れた靴を履いた瞬間に、「お、なんか痛くない!」
手の装具をつけたあとに、「あ、これなら握れる!」
初めてチェックソケットを履いた方が、
当たり前のように歩き出したときに「歩けてますやん」と突っ込むと、
返ってくるあの笑顔。

コルセットをつけて「楽になった気がする」と言われたときもそうです。
報われた気にはなります。


問題解決が好きな人には、間違いなく楽しい仕事です。
「どうしたらこの人の困りごとを解決できるか」を常に考える仕事ですから。

裁量を持たされると仕事は一気に面白くなる。
これはどんな職業でも共通ですが、
この仕事は裁量と結果の距離が近い
努力がそのまま反応として返ってくるのが魅力です。


知識を身につける。
経験を積む。
実践して、また学ぶ。

このサイクルが自然と仕事の中に組み込まれている――
そこが、義肢装具士という仕事のいちばんの面白さだと思います。


まとめ

義肢装具士という仕事は、
医療とモノづくりのあいだに立つ、ちょっと特殊な職業です。

誰かの「歩けない」「握れない」を「できる」に変える仕事。
けれど同時に、制度の中で動く“公的職業”でもあります。
だからこそ、努力がそのまま収入や評価に反映されるとは限らない。
現場を支える職人でありながら、社会の仕組みの中で生きていく。
――そんな“構造と現実の狭間”で成り立つ仕事です。

でも、ひとつだけ確かなのは、
「誰かの動きを取り戻す」ことに関われる喜びがあるということ。
それはAIにも置き換えられない、人間の領域です。

制度は変わらなくても、技術は進化します。
AIや3D技術を味方につけて、“いい仕事”を続ける。
それが、これからの義肢装具士の生き方だと思います。